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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)9609号 判決 1957年12月26日

平和相互銀行

事実

原告近藤健次郎は、被告株式会社平和相互銀行が原告所有にかかる本件不動産に対し原被告間の債務弁済契約公正証書の執行力ある正本に基いて強制競売手続を執つてきたことについて、右契約に基く債務はすでに完済して居り、債務は消滅しているので強制執行は許さるべきでない。仮りに債務が残存するとしても、被告銀行のなした相殺は前記債務弁済契約公正証書第四条に反し、(前記見出し中「 」の部分)且つ民法第五〇四条の規定により許さるべきでない。被告は債権の担保を喪失したのであるから、保証人たる原告(原告の債務は主債務者訴外真産業株式会社の被告銀行に対する保証債務である)は債務を免れる。仮りに被告主張のように相殺につき主債務者たる訴外会社の承諾を得ていても同様である。すなわち昭和二八年七月二八日被告は担保を喪失しているから、同日原告は償還を受けられなくなつた一五六万円の限度において債務を免れるものであると主張した。

被告株式会社平和相互銀行は、本件の債務名義たる債務弁済契約公正証書中第四条の約旨は、債務者(主債務者及び連帯保証人)が本件債務不履行のときは、その債務者が債権者に対し別口の相互掛金契約による掛金あるときは、債権者において解約処分をなした上、その返還金を本件の債権の弁済に充当されても債務者において異議がないことを承諾した条項であつて、その相殺充当を為すと否とは全く債権者の自由で、充当しなければならないものではない。而して本件については被告は主債務者たる訴外会社に対し、他に額面百万円と五五万円の約束手形の割引による手形債権があり、右手形はその支払期日に何れも不渡となつたので、被告は昭和二八年七月二八日訴外会社加入の相互掛金契約二口を解約して、その返還金と右不渡約束手形金と対当額にて相殺の意思表示をなし、同月三一日訴外会社は右相殺を承認したのであつて、この未給付返還金と本件の債権とは差引計算をしないから、本件の債権は消滅していない。よつて被告は原告の請求に応ずることはできないと主張した。

理由

被告株式会社平和相互銀行が原告主張の債務名義に基き連帯保証人たる原告所有の物件に対し強制競売の申立をなし、その開始決定を受けたこと、主債務者たる訴外真産業株式会社が被告銀行との間に三口合計千三百万円の月掛相互掛金契約をなしたことは当事者間に争がない。

よつて原告主張のように強制執行の基本となつた債務が弁済により消滅したかどうかを判断する。本件債務弁済契約公正証書によると、その第四条には「三和商事株式会社近藤健次郎(本件原告)は乙(債務者真産業株式会社)及び相保証人と連帯して本債務の履行を為すことを保証した。乙又は連帯保証人が第一条記載以外に別口の相互掛金契約及び債権者たる銀行に預貯金を為した場合はそれによる債権は本件の担保に供し乙が本債務を履行しない場合に解約手数料を差引きその残額を対当額において相殺し本債務の弁済に充当されても何らの異議を述べないことを約諾した」と記載されているのでその趣旨を検討するのに、債務者及び連帯保証人は被告に対する債権を右公正証書による本件債務の担保に供し、債権者たる被告は右債権と本件債権とを相殺して本件債務の弁済に充当することができるし、これに対して原告等は異議のないことを約したもので、債権者たる被告は相殺を義務づけられているものではなく、相殺すると否とはその自由に決することができるし、被告が相殺しなくともこれに対して債務者及び保証人は何らの異議ないことを約諾したものと解するのを相当とする。従つて訴外真産業株式会社が相互掛金契約に基く債権を本件債務と相殺しないで、被告が同訴外会社に対して有する別口の債権と相殺したとしても、訴外会社並びに連帯保証人たる原告は右特約に基いて異議を主張することができないため、担保を喪失したとして民法第五百四条の権利を主張することはできないというべきである。

よつて被告主張の限度において本件債務は残存しているものと認めるほかないから、その額を超える部分については原告の請求は理由ありというべきであるが、その余の請求は理由がないとしてこれを棄却した。

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